「定年」という言葉が現実味を帯びてくる50代。長い会社員生活のゴールが見え始めると同時に、「この先、自分はどう働いていくだろうか」と考える機会が増える方も多いのではないでしょうか。
人生100年時代といわれる現代において、定年後も社会と関わり、培った経験を活かして働き続けたいと願うのは自然なことです。
その選択肢の一つとして、近年「フリーランス(個人事業主)」という働き方が注目されています。
しかし、フリーランスとしての独立は、勢いや憧れだけでは成功が難しいのも事実です。会社という組織に守られた立場から、すべてを自分で切り盛りする立場へと変わるためには、入念な準備が欠かせません。
この記事では、定年を意識し始めた会社員の方が、フリーランスという新しいキャリアを成功させるために、「会社員である今だからこそ準備しておくべきこと」を、人脈、実績、資金計画の観点から具体的に解説します。
なぜ今、定年前にフリーランス準備が注目されるのか
人生100年時代を迎え、60歳や65歳で迎える定年は、キャリアの終着点ではなく「新しい働き方への転換点」となりつつあります。
会社員として培った豊富な経験や専門知識を活かし、定年後も自分らしく社会に貢献し続けたいと考える人にとって、フリーランスは魅力的な選択肢です。
しかし、準備不足のまま独立すると、収入が不安定になったり、仕事の獲得に苦労したりするケースも少なくありません。
だからこそ、安定した収入と社会的信用がある「会社員のうち」に準備を始めることが注目されています。
50代・定年前からフリーランスを目指すメリット
会社員であるうちに準備を始めることには、多くの利点があります。
安定収入がある中での準備
最大のメリットは、毎月の給与という安定した収入源があることです。独立直後は収入が不安定になりがちですが、会社員のうちにスキルアップのための学習や、副業での実績作りに挑戦できます。
金銭的な余裕は、精神的な余裕にもつながり、焦らずに準備を進める土台となります。
豊富な経験とスキルの活用
50代の会社員は、数十年にわたる職業経験の中で、専門スキルだけでなく、問題解決能力や交渉術、マネジメント能力といったポータブルスキルも身につけています。
これらはフリーランスとして活動する上で強力な武器となるでしょう。
定年後の働き方を自分でデザインできる
フリーランスは、働く時間や場所、受ける仕事の内容を自分で決められます。
定年後は体力を考慮しながらペースを落として働きたい、あるいは新しい分野に挑戦したいなど、自分のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を設計できるのも大きな魅力です。
知っておきたいデメリットとリスク
一方で、フリーランスという働き方にはデメリットやリスクも存在します。これらを事前に理解し、対策を講じることが重要です。
収入の不安定さ
会社員時代のように毎月決まった額が振り込まれるわけではありません。仕事の量や単価によって収入は変動します。
案件が途切れるリスクも常にあり、営業活動や交渉も自分で行う必要があります。
「会社の肩書」がなくなる
独立すれば、誰もが知る企業名や役職は使えなくなります。「個人の実力」だけで信頼を勝ち取らなくてはなりません。
これまで会社の看板で仕事ができていた部分がどれだけあったのか、痛感する場面もあるでしょう。
全てを自分で管理する責任
仕事の遂行はもちろん、営業、契約、経理、税務処理、そして健康管理まで、すべてが自己責任となります。
会社が代行してくれていたバックオフィス業務の負担は、想像以上に大きいものです。
会社員のうちに絶対やるべきフリーランス準備【5つのステップ】
フリーランスとしての独立は、思いつきで成功するものではありません。会社員という立場を最大限に活かし、計画的に進めることが成功の鍵を握ります。
ここでは、独立を成功させるために不可欠な5つの準備ステップを具体的に解説します。
これらのステップは、定年退職してから始めるのでは遅いものばかりです。ぜひ、今すぐ取り組めることから始めてみましょう。
ステップ1:自己分析とスキルの棚卸し
「自分は、何で稼いでいくのか」。これを明確にすることが最初のステップです。
会社では人事異動などで様々な業務を経験してきたかもしれません。その全てを振り返り、自分の「武器」を棚卸ししましょう。
まずは、これまでのキャリアで得た「専門スキル(例:経理、プログラミング、デザイン、営業)」と、「ポータブルスキル(例:プロジェクト管理、交渉力、資料作成能力、課題発見力)」を全て書き出します。
次に、それらのスキルが市場で求められているか、つまり「お金になるか」という視点で評価します。自分の強みと市場のニーズが重なる領域こそが、あなたがフリーランスとして戦うフィールドです。
ステップ2:実績作り(ポートフォリオの準備)
フリーランスの世界では、「あなたは何ができますか?」と問われたときに、「これをやってきました」と具体的な実績(ポートフォリオ)を提示できるかが極めて重要です。
会社での実績をまとめる際は、守秘義務に抵触しない範囲で、「どのような課題に対し、どう取り組み、どんな成果を出したか」を具体的に説明できるように整理しておきます。
可能であれば、現職の会社に許可を得た上で「副業」を始めるのが有効です。クラウドソーシングサイトなどを活用し、小さくてもよいので「会社名に頼らず、個人の力で仕事を完遂した」という実績を作りましょう。
これは自信になるだけでなく、独立後の営業資料としても機能します。
ステップ3:人脈の棚卸しとネットワーキング
多くのフリーランスが、独立後の最初の仕事は「現職・前職のつながり」から得ていると言います。定年前に、自分がどのような人脈を持っているかを棚卸しすることは、非常に重要です。
社内の同僚や上司、取引先、過去に名刺交換した人など、リストアップしてみましょう。その際、ただ名前を並べるだけでなく、その人たちと今後どのような関係を築きたいかを考えます。
また、会社員であるうちに、意識的に社外のネットワークを広げる活動も始めましょう。異業種交流会やセミナーへの参加、ビジネスSNSでの情報発信などは、新しいつながりを生むきっかけとなります。
ステップ4:案件獲得のルートを確保する
独立後、どうやって仕事を得るのか、その「営業ルート」を会社員のうちに確立しておくと安心です。人脈からの紹介以外にも、案件獲得の方法は多様化しています。
- フリーランス専門のエージェントに登録してみる
- クラウドソーシングサイトで案件の傾向を掴む
- 自分のスキルに合ったマッチングプラットフォームを探す
副業でこれらのサービスを実際に利用してみることで、自分に合った案件獲得の方法が見えてきます。複数のルートを確保しておくことが、収入を安定させるための鍵です。
ステップ5:学習とスキルのアップデート
会社員時代は、会社が研修や学習の機会を提供してくれたかもしれません。しかし、フリーランスになれば、自分のスキルをアップデートするための投資は全て自己負担です。
まずは、ステップ1で棚卸しした自分のスキルが、今後も市場で通用するかを冷静に見極めましょう。
もし陳腐化し始めている、あるいは競合が多いと感じるなら、新しい知識や技術を学ぶ必要があります。
定年を意識し始めた今こそ、学び直しの絶好の機会です。
オンライン講座などを活用し、専門性を高めたり、関連分野のスキルを身につけたりすることで、フリーランスとしての市場価値は高まります。
フリーランス独立後の「お金」の不安を解消する資金計画
独立を考えたときに、多くの人が直面するのが「お金」に関する不安です。
会社員時代とは異なり、収入が不安定になる可能性を考慮し、入念な資金計画を立てることが、安心して新しいキャリアをスタートさせるための土台となります。
会社員として安定した収入がある今だからこそ、できる準備があります。
生活防衛資金はいくら必要か
フリーランスになった直後は、すぐに仕事が軌道に乗るとは限りません。収入がゼロ、あるいは会社員時代の半分以下になる時期も想定しておくべきです。
そのために必要なのが、仕事がなくても生活できる「生活防衛資金」です。
一般的に、最低でも半年分、できれば1年分の生活費(固定費+変動費)を貯蓄として確保しておくことが推奨されます。
まずはご自身の毎月の支出を正確に把握し、目標額を設定しましょう。会社員のうちに、この資金を計画的に準備することが、独立後の精神的な安定剤となります。
退職金と年金のシミュレーション
定年を控えた世代にとって、退職金と年金は資金計画の大きな柱です。
退職金は、貴重な独立資金や生活防衛資金の一部となります。会社の退職金規程を確認し、おおよその支給額を把握しておきましょう。
それを事業の運転資金にするのか、生活費に充てるのか、目的を明確にしておくことが重要です。
また、年金がいくらもらえるのかも必ず確認します。「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」で、将来の受給見込み額をシミュレーションしましょう。
フリーランスになると国民年金に切り替わるため、会社員時代の厚生年金と合わせて、老後の資金計画を立て直す必要があります。
会社員とフリーランスの「社会保険」と「税金」の違い
会社員は、健康保険料や厚生年金保険料、住民税などが給与から天引きされ、年末調整も会社が行ってくれます。しかし、フリーランスになると、これら全てを自分で行わなくてはなりません。
健康保険
退職後、会社の健康保険を「任意継続」するか、「国民健康保険」に加入するか、あるいは家族の扶養に入るかを選択します。保険料を比較し、自分にとって有利な選択をしましょう。
年金
厚生年金から「国民年金」に切り替わります。
税金
独立したら「開業届」を税務署に提出します。また、自分で確定申告(特に節税メリットの大きい「青色申告」がおすすめです)を行うための準備や、簿記の知識も必要になります。
これらの手続きや税務の知識は、会社員のうちに学んでおくと、独立後に慌てずに済みます。
準備期間中に整えたいマインドセットと環境
フリーランスとして成功するためには、スキルや資金といった実務的な準備だけでなく、「心構え(マインドセット)」と「環境」を整えることも非常に重要です。
会社員という守られた立場から、全てが自己責任となる世界へ飛び込む前に、メンタル面での準備も進めておきましょう。
「会社の看板」なしで戦う覚悟
会社員時代は、良くも悪くも「会社の看板」が信用を担保してくれていました。しかし、独立すれば、あなた個人の名前と実力だけが頼りです。
「〇〇株式会社のAさん」ではなく、「Aさん」として信頼を勝ち取っていく覚悟が求められます。誠実な仕事ぶりと、高いプロ意識を持ち続けるマインドセットが必要です。
孤独と向き合う準備
フリーランスは、基本的に一人で仕事を進める時間が増えます。会社に行けば同僚がいた環境とは異なり、孤独を感じやすい働き方でもあります。
会社員のうちから、仕事の悩みを相談できる相手(メンター)や、同じフリーランスを目指す仲間を見つけておきましょう。
SNS上のコミュニティに参加したり、セミナーでつながりを作ったりすることも有効です。孤独を前提とした上で、意識的に他者と関わる機会を作ることが大切です。
家族の理解を得る
独立は、ご自身だけでなく家族の生活にも影響を与えます。特に収入が不安定になるリスクについては、事前にしっかりと家族に説明し、理解を得ておくことが不可欠です。
「なぜフリーランスになりたいのか」「どのような計画で進めるのか」「資金計画はどうなっているのか」を具体的に提示し、家族を安心させることが、応援してもらうための第一歩です。
会社員のうちに副業で実績を出し、フリーランスとしてやっていける手応えを家族に示すのも良い方法です。
健康管理こそ最大の資本
フリーランスにとって、体調不良はそのまま収入減に直結します。会社員のように有給休暇や傷病手当金はありません。健康な体を維持することこそが、フリーランスとして長く働き続けるための最大の資本です。
会社員時代に利用できる健康診断や人間ドックは必ず受診し、自分の健康状態を正確に把握しておきましょう。食生活の見直しや定期的な運動習慣を身につけるなど、自己管理能力を高めることも、重要な準備の一つです。
まとめ
定年を意識し始めた今、フリーランスという選択肢を考えることは、ご自身の豊かなキャリアを築く上で大きな一歩となります。しかし、その成功は、どれだけ入念な準備を「会社員のうちに」行えたかにかかっています。
ご紹介したように、準備すべきことは「スキル」「実績」「人脈」「資金」「マインドセット」と多岐にわたります。これらはすべて、安定した収入と社会的信用がある会社員という立場だからこそ、リスクを抑えて取り組めることばかりです。
定年後は「第2のキャリア」のスタートラインです。培ってきた経験を活かし、自分らしく輝き続けるために、まずは「スキルの棚卸し」と「小さな実績作り」から始めてみてはいかがでしょうか。
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