バレエ公演のチケットを取ったあとに、オーケストラの音楽まで楽しめるだろうかと気にかかる方もいらっしゃいます。
楽器の名前も指揮者の役割も分からないまま客席に座るのは、少し心細いもの。しかし、音楽の知識がなくても、踊りと音の重なりは十分に味わえます。
公演当日に演奏形態をどう確かめ、どこへ耳を向ければよいのか、初めての方に向けて順に整理しました。
音楽をもう一つの案内役にする
初めてバレエ公演を観る日は、ダンサーの動きを追うだけで精いっぱいになることがあります。衣装や舞台美術にも目が向くので、音楽まで気を配る余裕はなかなか生まれません。
それでも、舞台のすべてを同時に受け取らなくても大丈夫です。音は、場面へ戻るための手がかりとして聴くだけでも、公演は十分に楽しめます。
New York City Balletの音楽監督へのインタビューでは、演奏する側が作曲者の意図とダンサーに必要な速さの両方を考えていることが語られました。
同団は、音楽がそのバレエにとって大きな位置を占めることも紹介しています。音楽は、踊りの後ろに流れる飾りではありません。
客席では仕組みを分析せず、音が動きをどのように支えているように感じられるか、そのまま眺めてみてください。
最初に演奏形態を確認する
バレエ公演の音楽が生演奏か録音かは、公演によって違います。当日になって戸惑わないよう、チケットを取った段階で二つの場所に目を通しておくと安心です。
公演の公式ページで音楽の欄を見る
バレエ公演だからといって、必ず生演奏とは限りません。観に行く公演の公式ページや主催者の案内で、音楽に関する記載を探してみてください。
作曲者、指揮者、オーケストラの名前が載っているかどうか。ここが最初の手がかりになります。
- 作曲者の名前が載っているか
- 指揮者やオーケストラの名前が載っているか
- 演奏形態について記載があるか
記載が見つからないときは、分からないまま当日を迎えても構いません。Royal Ballet and Operaの公式ページには、同劇場のオーケストラの案内が置かれています。
メインステージでThe Royal BalletとThe Royal Operaを伴奏する団体、という説明。これは同団体の体制を示す情報です。ほかの公演に同じ形が当てはまるとは限らないので、観に行く公演ごとに確かめます。
プログラムのクレジットを探す
公演プログラムが手に入ったら、配役だけでなく音楽の欄にも目を向けます。作曲者のほかに、指揮者や演奏団体の名前が並んでいる場合も少なくありません。
Royal Ballet and Operaが公開した2019年『コッペリア』の上映資料には、作曲者、指揮者、同劇場のオーケストラが記載されています。
クレジットの並び方は公演ごとに違います。表記が見当たらなくても、推測で補わず、確認できた範囲だけを受け取れば十分です。
幕が開く前に聴きどころを一つ決める
客席に座ってから何を聴こうか迷うと、耳の置き場所が定まらないまま幕が下りてしまいます。決めるのは、開演前の数分で十分。難しい準備はいりません。
指揮者、楽器のまとまり、旋律。この三つのうち気になるものを一つだけ選んでおくと、幕が開いてからの聴き方に迷いにくくなります。
指揮者の姿を一度だけ目に入れる
客席から指揮者が見える会場では、開演前やカーテンコールで一度だけ目を向けてみてください。演奏が始まってからは、ずっと見続けなくても構いません。
New York City Balletの音楽監督は、バレエを指揮する経験を、音だけでなく視覚を導く仕事だと表現しています。
ダンサーが求める速さを読み取ることは、オペラや演奏会の指揮とは違う学びだったとも述べられました。これは同団の音楽監督による見解であり、指揮者全般の定義ではありません。
客席で速さの調整まで読み解こうとしなくて大丈夫です。舞台と演奏者の間に指揮者がいること。それを知っているだけでも、踊りと音が同じ時間の中でつくられている感覚が伝わってきます。
楽器のまとまりを一つ選ぶ
楽器の名前に詳しくなくても、音の高さや響きの違いは楽しめます。細く高い音、やわらかく広がる音、床へ伝わるような低い音。気になったものを一つ選びます。
楽器を言い当てることより、その音が聞こえたときに舞台で何が起きていたかを見る方法です。
一人の踊りだったか、群舞だったか。静かな動きと大きな移動のどちらに重なっていたかも、あわせて眺めます。無理に記録しようとしなくても構いません。
ライフデザインアカデミーでも、正解を当てることより、心に残った音と動きを一組見つけることが観賞の入口になると考えています。
踊りと音が重なる瞬間を眺める
踊りと音楽は、同じ時間の中で進んでいます。その重なりが見えやすいのは、動きが始まる瞬間と、音が消える前後の二か所。どちらも、特別な知識なしに気づけます。
動きが始まる瞬間の音を聴く
ダンサーが動き始める瞬間に、どのような音が鳴っていたか。ここが最初の聴きどころです。旋律の始まりと一緒に動くこともあれば、音が続く途中から動きが加わる場合もあります。
跳ぶ瞬間、着地する瞬間、腕が開く瞬間。すべてを追いかける必要はありません。一つだけ選んで、音と動きが同時に変わったかどうかを感じてみてください。
New York City Balletの音楽監督は、伝統的な物語バレエではダンサーに合わせることを大切にしていると語っています。
あわせて、作曲者が意図した速さと、ダンサーが難しい動きを行うために必要な速さを一つにまとめることも、自身の役割として説明しました。
踊りと演奏が互いを意識している一例として受け取ると、舞台の見え方が少し変わります。
音が消える前後を眺める
音が大きく終わったとき、ダンサーの動きも止まるとは限りません。最後の響きが残る中で姿勢を保つこともあれば、次の動きへ進んでいくように見えることもあります。
音が消える前後に、舞台の上で誰が動いているかを眺めてみてください。静けさも含めて一つの場面として受け取ると、音の終わりが見えやすくなります。
拍手のタイミングに迷ったときは、周囲の様子を見てから合わせても構いません。音が終わった瞬間に慌てず、舞台の動きが一区切りつくのを待てば大丈夫です。劇場での過ごし方は初めてのバレエ観劇で迷わない準備とマナーでも案内しています。
場面が変わったら音の違いを一つ探す
物語バレエでは、場面が切り替わるたびに音楽の表情も変わります。その変化に一つだけ気づけると、筋を追いきれなくても舞台の流れをつかみやすくなるはずです。
前の場面と一つだけ比べる
物語が別の場所へ移るときは、音の違いを一つだけ探します。音が大きくなったか、小さくなったか。高い音が増えたのか、低い響きが目立つようになったのか、どちらか一方に気づけば十分です。
公開中の記事初めて観るバレエ演目の選び方では、『くるみ割り人形』の後半を、音楽が変わるたびに衣装や動きの印象がどう変わるか眺める方法を紹介しています。
旋律だけでなく、楽器のまとまりや音の大きさが変わったように感じるかどうかも、あわせて確かめてみてください。
同じ旋律が戻る瞬間を待つ
一度聞いたような旋律が戻ってきたら、前に聞いた場面を思い出してみます。同じ人物がいるか、場所が変わったか、踊る人数が増えたか。見比べる材料になります。
旋律が同じかどうか自信がなくても問題ありません。似ていると感じたこと自体が、いまの場面と前の場面を結ぶ手がかりになります。
分からなくなったら、目の前の音へ戻れば大丈夫です。筋を追い直そうと焦らず、その場面で一番よく聞こえる音を一つ選べば、また舞台に入り直せます。
全部を聴き取らなくても大丈夫
音楽を楽しもうと意識するほど、聴き逃した部分が気になってしまうことがあります。けれど、観賞に合格点はありません。心に残った音が一つあれば、その日の公演は十分に味わえたと言えます。
楽器の名前を覚えることが目的ではない
オーケストラの楽器をすべて知らなくても、バレエの音楽は十分に楽しめるものです。
音色を正確な名前へ結びつけるより、軽い、深い、鋭い、やわらかいといった自分の印象を残しておく方が、後から思い出しやすくなります。
専門知識があると気づけることは増えるでしょう。ただ、知識がないから観賞できないわけではありません。舞台を見て心が動いた瞬間、そこにどのような音が重なっていたか。覚えているのがそれだけでも十分です。
音楽だけを聴こうとして、踊りを見失うこともあります。そのときは視線を舞台へ戻し、音は全体の雰囲気として受け取れば大丈夫です。見ることと聴くことを、同じ割合にそろえる必要はありません。
気になった音を一つ持ち帰る
終演後に思い出すのは、長い旋律でなくても構いません。静かな場面の一音、群舞と重なった大きな響き、登場人物と一緒に戻ってきた旋律。どれか一つを選びます。
うまく言葉にできなければ、明るく感じた、落ち着いた、少し不安になったという印象のままでも構いません。後から公演プログラムを読み返すと、その音がどの場面にあったか思い出せることがあります。
次に別の公演を観るときは、同じ聴き方を繰り返さなくても構いません。今度は低い音を追ってみる、指揮者を一度だけ見てみる。ご自分のペースで入口を少しずつ変えていけます。
終演後にプログラムへ戻る
終演後は、公演公式ページやプログラムの音楽欄へ戻ります。作曲者、指揮者、オーケストラの名前を確かめて、記憶に残った場面と結びつけてみてください。
同じ演目名でも、上演団体や制作が変われば、指揮者や演奏者も同じとは限りません。別の公演情報と混ぜず、実際に観た公演の公式情報だけを確かめます。
指揮者や演奏団体の紹介ページがあれば、観賞後に読むのもおすすめです。事前に情報を詰め込むより、聞いた音を思い出しながら読む方が入ってきやすいという方もいらっしゃいます。
公式情報で確認できないことは、推測で決めなくて大丈夫です。心に残った音と踊りの組み合わせは、そのままご自分の観賞記録として残るものです。
まとめ
バレエ公演の音楽は、まず演奏形態を公式情報で確かめ、指揮者、楽器のまとまり、音と動きの始まりから聴きどころを一つだけ選ぶと味わいやすくなります。
全部を聴き取ろうとせず、心に残った音と踊りを一組だけ持ち帰れば十分です。
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